ヒドロキシ-L-プロリンには4種類の異性体が存在するが、trans-4-およびcis-3-ヒドロキシ-L-プロリンはそれぞれ対応する水酸化酵素を利用して、L-プロリンからの位置・立体選択的な合成が可能となっている。一方、cis-4-およびtrans-3-ヒドロキシ-L-プロリンに関しては合成酵素が見いだされておらず、効率的な生産プロセスが確立されていない。今年度は、抗腫瘍剤や医薬品合成原料として有用なcis-4-ヒドロキシ-L-プロリン(c4Hyp)をL-プロリンから-段階で合成可能な水酸化酵素の探索を試みた。ゲノム情報に基づき、バイオインフォマティクスツールを活用し、Streptcmyces sp. TH-1由来cis-3-水酸化酵素をクエリーとした網羅的な検索を行った。アミノ酸配列や立体構造比較から、候補とした機能未知遺伝子を大腸菌でクローニングおよび高発現させて機能を解析した。評価には高速液体クロマトグラフィー、質量分析計を利用した。その結果、根粒菌Mesorhizobium lotiおよびSinorhizobium melilotiの機能未知タンパク質がともにcis-4-水酸化活性を有することを初めて明らかにした。当該酵素は2-オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼであった。また、cis-3-水酸化酵素とのアミノ酸配列類似性は33%であったことから、新規酵素であると考えられる。これら酵素の特性を踏まえ、c4Hyp生産プロセスの構築ならびに最適化を検討した。休止菌体系において反応を行ったところ、L-プロリンからモル変換収率約30%でc4Hypを合成したが、L-プロリンとc4Hypの分解が確認された。そこで、L-プロリンの主要な分解酵素であるプロリンデヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株を作製し、同反応に供したところ、80%を越える収率を達成した。
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