研究概要 |
JAXAとの共同研究で液体ロケットエンジン用噴霧燃焼シミュレータの開発を進めることになったため,前年度に作成した液滴間火炎伝播計算アルゴリズムのKIVAへの搭載を次年度に回し,次年度に計画していた微粒化サブグリッドモデルの構築に必要な液糸の微粒化過程の解明のための研究を今年度において精力的に実施した.その結果,次に記すような画期的な成果をもたらすことができた.(1)従来の微粒化理論では噴射液や液糸に必ず存在する端の効果が看過されているが,「液柱端の存在」と「液柱端の収縮(液柱部から端に働く母線表面張力によって起きる)に伴って発生する表面張力波」にこそ,微粒化現象の本質があることが判明した.(2)表面張力波が自然に不安定波に転化する仕組みを実験・理論・数値シミュレーションによって解明し,噴射液および液糸の自己完結的な分断サイクルの構築に成功した.(3)従来の微粒化理論では,表面張力波の概念を欠いていたために,不安定化後の事柄しか見ていなかったため全体像を捉えることができなかったのである. 他の研究項目については,当初の計画に沿って研究を実施し,微粒化シミュレータを構築していく上で有用な新しい知見を獲得した.すなわち,ガス流によって伸張される液体膜の変形過程を数値シミュレーションによって追跡し,気液速度差が非常に大きい段階においても表面張力が有意に効き,表面形状が階殺状に変形して次第に液膜が薄くなり,最後の段形成において表面張力波の特性によって分断が起きることが見出された.この液膜の分断様式は,従来考えられてきた流体力学的不安定性とは圧力分布が逆であり,新しく発見された機構である.噴射液表面が段を作ることは,2流体噴射器の微粒化特性を調べる実験的研究における噴射液の高速度撮影でも確認された.また,この実験により,高速ガス流から働く逆流生成圧力の重要性を認識することができた.
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