微小重力下において超流動ヘリウム(He II)の熱流動現象がどのように振舞うかという問題は、物理的な興味のみならず、超伝導磁石を用いた高エネルギー宇宙線観測計画(AMS-02)においても工学的な研究テーマとなっている。そこで、開放空間型の自由落下塔を用いた実験が容易に繰り返すことができるHe IIの熱流動現象の可視化実験を提案した。平成20年度は前年度に引き続き。自由落下塔を用いた微小重力下での超流動ヘリウム膜沸騰実験を行った。実験装置を前年度よりコンパクト、軽量にするセットアップの開発、小型容器に超流動を作り出す実験工程の作成などに尽力し、実験成功に寄与した。これにより、昨年度に行われた実験から大幅に改良された微小重力実験が成功し、世界的にも類を見ない超流動ヘリウム中の膜沸騰実験を微小重力下で行い、その光学的可視化・ヒーク温度測定・ジッター計測等の同時計測結果を取得することが出来た。 実験の解析からRayleigh-Taylor不安定性を伴う細線ヒーター廻りの膜沸騰が、重力環境(=1G)から微小重力環境下(<1mG)に遷移することに伴って、その不安定性が変化することを確認した。また、沸騰熱伝達の臨界熱流束に関して、Van-der-Walls圧力の補正項を含めた式で説明できる可能性がある実験データを得ることができた。 その結果として論文2編の執筆と4件の学会発表等の成果を得ることが出来た。本実験は、世界で初めての自由落下塔を使った微小重力環境下でのHe II中の膜沸騰の可視化であるということから、平成20年10月に行われた米国物理学会流体力学部門のサテライトワークショップに招待を受けるなど評価を受けた。
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