研究概要 |
遺伝情報はDNAからRNA,さらにタンパク質へと伝えられ,最終的にタンパク質のあるいは機能性RNAとして生体反応を司っている。この過程で遺伝情報は正確に伝えられる必要があり,そこでエラーを生じると異常タンパク質の生成をひき起こす。異常タンパク質の蓄積は神経変性疾患の原因になり,また老化の進行とも関係すると考えられる。活性酸素は様々な生体成分を酸化するが,RNAの構成成分であるグアニンの酸化は遺伝情報の異常の原因とみなされている。グアニンの酸化体の1つである8-オキソグアニンはシトシンのみならずウラシルとも対合するので,RNAレベルで遺伝情報の変換をきたす。RNA合成の基質であるグアニンを含むヌクレオチドが酸化された場合には,DNAの鋳型鎖のアデニンに対合する形で8-オキソグアニンがとり込まれ,その結果アミノ酸の変化した異常タンパク質がつくられる。RNA中のグアニンが酸化されて8-オキソグアニンとなった場合にはそれとは若干異なる形で異常タンパク質ができる。 我々は前者の過程を抑えるために働いているヒトのタンパク質として,MTH1,MTH2,NUDT5を同定した。これらはいずれも大腸菌のMutTタンパク質と共通の配列を持っているが,その他に類似の機能を持つタンパク質が存在する可能性があるので,そのようなタンパク質のcDNAをクローニングするための実験系を構築した。後者の過程で働くタンパク質としては大腸菌のPnpを同定したが,このタンパク質はポリヌクレオチドフォスフォリラーゼ活性を持っている。我々はヒトの細胞にも同じような活性を持つタンパク質が存在することを見出し,そのcDNAをクローニングした。このタンパク質を過剰発現させることによって大腸菌mutT^-株の発現異常を抑えることができたので,ヒトでも同様な機構が存在することが示唆される。
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