研究概要 |
本研究では, 環境要因がいかにして個体に受容され発生機構に反映されていくのかを解明することを目的として, シロアリ・アブラムシ・ミジンコを材料に研究を推進している. 環境要因は化学物質や個体間相互作用などによる外界シグナルであるが, この外界シグナルがいかにして個体に受容され, その個体の生理条件に影響を与え, ひいては発生プログラムを改変していくのかを, システマティックに理解することを試みている. 20年度は, オオシロアリHodotermopsis sjostedtiにおける外分泌腺の解析および兵隊特異的遺伝子の分子生物学的解析が進展し, 大顎腺や唾液腺などからの分泌物が個体間相互作用に大きく関わること, およびそれらの機構が種を超えて保存されていることが, 分子データにより示唆された(三浦). ヤマトシロアリReticulitermes speratusにおける解析では, 繁殖虫への分化における器官発達の詳細を解析し, 特に幼若ホルモンの変動パターンとカースト分化への関係を明らかにした(前川). また, バクウンボクハナフシアブラムシTuberaphis styraciの兵隊分化の解析においては, 化学物質とその受容機構の関係を化学分析と電気生理学を組み合わせた新たな手法を用いることで, これまでよりも立ち入った解析が可能となった(柴尾). さらにはミジンコDaphnia pulexの防御形態の形成時に発現が上昇する発生制御因子を数多く同定し, 定量的な発現解析を行った(三浦). 20年度は最終年度であったが, 様々な節足動物群で, 外界シグナルを生理機構に反映させる共通の機構が明らかとなった. これらの成果は国際誌を含めいくつもの業績として公表した.
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