1. 東南アジアの湿潤熱帯雨林のみに分布するアリ植物オオバギ属の共生アリ17系統について、種分化と多様化の歴史を詳細に明らかにした。分布域全域をカバーする32地点からの433サンプルにもとづくDNA分子系統解析の結果、多様化がボルネオを中心にここ約2000万年の間に起こったこと、ボルネオ以外の地域では何度も絶滅が起こり、ボルネオからの移入によって種多様性が維持されてきたことなどが明らかとなった。 2. マレー半島とボルネオ島の13地点から採集した共生カイガラムシ220サンプルのmtDNA分子地理系統樹(COI遺伝子)を作成し、遺伝的多様度、集団サイズおよび個体数変動の歴史をそれぞれ地理的に解析した。その結果、カイガラムシの氷期レフュジアおよび地理的な分散経路は上記のアリの結果と似ており、ともに第三紀にボルネオ島で起源しマレー半島へと分散したこと、両者の氷期レフュジアおよび多様性の中心地はボルネオ北東部の山地帯であることなどが明らかになった。 3. ボルネオ島ランビル国立公園においてアリの体表面炭化水素を化学分析した。約40のコロニーから採取したサンプルは、その炭化水素の組成比から大きく8つのグループに分けることができた。この物質は種認識にかかわっている可能性が高く、したがってこれらのグルーピングは種を反映している可能性がある。mtDNA系統とこのグルーピングを比較したところ、一部不一致が見られたことから浸透交雑の可能性が示唆され、今後核DNAを用いた分子系統樹の見直しが必要であることが判明した。
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