生態系動態と人間の社会経済的動態とをカップリングさせた数理モデルを展開した。 湖の水質改善に、住民や農業従事者、事業者などの多数の人々の協力が必要な状況を想定し、それぞれのプレイヤーがリンの流出濃度の高い経済的行動と流出のすくない環境にやさしい行動の問で選択するとした。人々の公共の益に寄与したいとする心理傾向を表すため、効用の項に「社会的圧力」を加え、それが大きいほど人々は環境を改善する行動をとる傾向があるとする。 多くの人が協力するため協力から抜け出ることが難しく水質が高く保たれる状態、逆にだれも協力しないためにだれも協力しようと思わないで、水が汚染されたままの状態が、いずれも安定になる傾向がある。技術が進歩してリンを効率よく除去することができるようになると、湖水の水質が改善されるはずと思われるかもしれないが、その結果として人々の関心が低下し、逆に水質が低下する場合がある。これは人々の協力への関心に注意を払わないと生態系管理は成功しないことを示している。 泥の巻き上げや植生帯の効果によるレジームシフトが知られているので、この非線形性を取り込んだ解析をおこなった。さらには複数の人聞集団の間で環境保全に関する意見の対立が出現するプロセスに関する解析を行い、Ecological ResearchおよびEcological Economicsに印刷中である。 このほか、森林の空間動態の研究、森林伐採において所有者の経済的決定と生態系回復を結合したモデルの研究、体内での進化プロセスとして発癌の研究までさまざまな研究成果があがった。 協力の進化において間接互恵(「よい」とか「わるい」といった評判をもちいて各自に協力を強制する「間接互恵」の枠組みでコストをかけて処罰を行う行動が社会の協力レベルを改善するかどうかに関する理論的論文は2009年1月1日号のNatureに掲載され、他のセクションで紹介された。
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