研究概要 |
雌を単為生殖で産む能力と昆虫の社会行動の進化的相互作用を解明するのが本研究の目的である.完全単為生殖種アミメアリの単眼大型個体が種内の社会寄生的系統ある事実をDNAマーカーにより厳密に検証した.また,mt DNA配列の解読から紀伊長島と香川の単眼大型個体が別起源であることをさらに示唆するデータが得られた.これは雌性単為生殖が社会寄生性の進化を助長するとする未検証の仮説を強く支持する証拠である,長翅型と短翅型の女王演同所的に存在するウメマツアリでは,短翅型コロニーのオスは同一コロニー内の女王と同一のミトコンドリアDNA配列を持ち,かつ同所的に存在する長翅型女王とより近い核ゲノム構成を持つことが示された.よって,短翅型では女王による次世代女王のクローン生産と同時に,オスによるオスのクローン生産が起こっていることが示唆された.産雌性単為生殖する3種のアリとその近縁種の受精嚢の準薄切片と超薄切片を作成し,その構造を光学顕微鏡およびTEMを用いて観察した.3種とも,典型的な女王の受精嚢と同様の構造をしめし,大きさや微細構造も近縁種と明らかな相違はなく,雄と交尾しなくなっても受精嚢の縮小や退化は生じていないことが明らかとなった.産雌性単為生殖するアリ種全種と他のアリ種との比較から産雌単為生殖は移動能力の乏しい種に多く局所適応が淘汰圧であるとする新仮説を提唱した.血縁淘汰説と矛盾するコロニーの遺伝的多様性の増加は,病原体のコロニー全体への致命的な感染を抑制する利益があるためだという仮説が提唱され(赤の女王説)ている。本研究ではヤマトシロアリ属の近縁種であるアマミシロアリ(R.a)とミヤタケシロアリ(R.m)は近縁種の交雑コロニーが種内交配のコロニーより高い生存率を示すという赤の女王説を支持するデータが得られた.その他,キイロヒメアリやトカラウロコアリなどで基本的な生活史情報が集められた。
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