研究概要 |
生物の嗅,覚情報処理機構の解明を目的に,カイコガー次嗅覚中枢である触角葉を構成する神経細胞を対象に以下の解析を行った。 触角葉における嗅覚受容細胞の匂い応答パターンを調べるために,昨年度の研究で作出した遺伝子組換え系統を改良し,性フェロモン受容細胞でカルシウム感受性蛍光タンパク質G-CaMPを発現する遺伝子組換え系統を作出した。この系統を用いて,触角をフェロモン刺激すると触角葉の大糸球体で濃度依存的なカルシウム濃度の上昇が起こることを示した。また単一感覚子記録法のセットアップを行い,予備実験として匂い刺激に対する受容細胞の電気的反応の計測に数例成功した。 並行して,触角葉からの出力神経である投射神経の解析を進め,大糸球体へ分枝する投射神経の一部は,フェロモン単体で触角を刺激したときに比べ,植物の匂い成分とフェロモンの混合物で刺激したときにより強い反応を示すことを見出した。この反応の違いは受容細胞レベルで起こることが示唆され,これらの結果を原著論文として発表した(Namiki and Kanzaki,2008)。 昨年度,分類した局所介在神経のタイプと機能との関係を明らかにするため,細胞内染色法と抑制性神経伝達物質であるGABAへの抗体を用いた2重染色実験を行い,多くの局所介在神経はGABA陽性であること,局所介在神経のタイプとGABAの分布に相関があること,を見出した。この結果を原著論文として発表した(Seki and Kanzaki, 2008)。 上記に加えて,本研究の成果に関連して,原著論文を2編(lkeno, et. al., 2007; Yamagata, et. al., 2008),昆虫の嗅覚情報処理機構を考察した総説,図書を計5編発表した。また成果の一部は,日本比較生理生化学会,国際比較生理生化学会などの国内外の学会の学術会議において報告した
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