我々の網膜には、暗所で働く桿体と、明所で働く錐体の2種類がある。桿体は光感度が高く薄暗いところで働くが、時間分解能は悪く、時々刻々の光の変化に追随することができない。一方錐体は光感度が低く明るいところで働き、時間分解能がよく、素早く動く物体を検出するのに適している。本研究では、光感度の違い、また、時間分解能の違いの2つに焦点を当て、桿体と錐体での光応答発生の分子メカニズムの違いを明らかにすることを目的とする。本研究において以下の成果を得た。 1.錐体でトランスデューシンの活性化効率が低い主な理由は錐体トランスデューシンに理由があること。桿体膜、または錐体膜に存在するトランスデューシンを桿体視物質、または錐体視物質で活性化した。その結果、錐体視物質は桿体トランスデューシンを高い効率で活性化したが、桿体視物質では錐体トランスデューシンを殆ど活性化できなかった。従って、錐体でトランスデューシンの活性化効率が低いのは、錐体トランスデューシンに理由があるとの結論を得た。 2.桿体と錐体とでは錐体の方がcGMP合成活性が格段に高いこと。錐体では応答の回復は桿体よりも素早い。その理山は、錐体の方でcGMP合成活性が高いためであろうと考えた。実験の結果、確かに錐体の方のcGMP合成活性が桿体に比べて30倍程度高く、それは、cGMP合成酵素1分子あたりの活性が錐体の方で高いのではなく、合成酵素の発現量が錐体の方で高いことによることがわかった。また、cGMP合成酵素の活性調節に関わるGCAPと呼ばれる一群の蛋白質の桿体と錐体でのサブタイプ発現パターン、及びその発現量を定量し、桿体と錐体におけるcGMP合成の定量的理解が得られた。
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