研究課題
本研究のターグットはアミノ酸25残基からなる昆虫サイトカイン(Growth-blocking peptide,GBP)である。GBPは単純なペプチドであるにも拘らず、多彩な生理機能を発揮することが明らかになっており、こうした多機能性発現の分子機構の解明を本研究の最終目標とした。アワヨトウ幼虫血球細胞からGBpレセプター候補として単離した分子量77kDaタンパク質(P77)は、レセプター結合実態によってGRPと直接結合しないことが明ららかになった。したがって、P77はGBPレセプターそのものではないものと結論付けた。しかし、このP77は細胞膜貫通ドメインを1個持つ膜タンパク質であり、単離した血球細胞をGBPと共にインキュベーションすることによって、インキュベーション開始後1分以内にそのチロシン残基がリン酸化される。また、その後、30分以内に速やかに脱リン酸化される。このリン酸化はGBPによる血球活性化能と明らかな柑関があり、リン酸化か観察されるのはGBP感受性のあるプラズマ細胞のみであることを確認した。つまり、P77はGBPレセプターではないとしても、GBPによる活性化シグナルを血球細胞内に伝達する機能を担っていることは間違いない。チロシンリン酸化に伴うシグナル伝達反応を探るため、種々の実験を行った結果、細胞質カルシウム濃度の上昇が検出された。この情報を基に、IP_3受容体アンタゴニストを予め、血球細胞に取り込ませた場合、GBPによるP77のチロシンリン酸化が阻害されることした。したがって、P77のリン酸化はGBPによる細胞質カルシウム濃度上昇によって誘起されるものと結論した。さらに、P77の細胞内領域には、哺乳類の免疫担当細胞で同定されたITAMモチーフが存在しており、このモチーフを介してIntegrinの活性を調節していることを明らがにした。P77の2本鎖RNAをアワヨトウ5齢幼虫に注射し発現を抑制した幼虫血球細胞は、Integrinの活性化も抑制され、血球細胞の活性化(突起伸長)も抑制されることを証明した。しかも、こうしてP77の発現抑制が起きたアワヨトウ幼虫では病原菌に対する感受性が高まり、コントロール幼虫に比べ有意に感染死亡率が上昇することが明らかになった。以上の一連の研究結果より、GBPの細胞内情報伝達経路には新規のアダプタータンパク質P77が関与していることが明らかになった。P77の発現が抑制したアワヨトウ幼虫体内では、正常な血球の活件化が阻害され、病原微生物に対する感受性も上昇する。従って、P77はGBPを介する細胞性免疫調節の中枢を担う情報伝達因子であることが明らかになった。
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J.Biol.Chem. 284
ページ: 29625-29634
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