本研究では、連鎖地図ベースで、ハイマツとキタゴヨウの交雑帯における遺伝子浸透のパターンを解析することを目的とする。研究のベースとなる連鎖地図は、ハイマツとキタゴヨウのF1雑種と推定される個体から採集した種子を利用して作成した。裸子植物の種子の胚乳は雌性配偶体であるため、1個体から得られた種子における対立遺伝子の1:1での分離を利用して、連鎖地図の作成が可能となる。 連鎖地図作成のための分子マーカーとしてEST、SSRおよびAFLPマーカーを用意した。AFLPは優性マーカーであるため、遺伝子型のタイプミスが起こりやすい。タイプミスを除く目的で、連鎖地図作成に用いた96個の種子胚乳遺伝子型データをSTRUCTURE (Pritchard et al.2000)のlinkage modelで解析し、父親由来と母親由来のアリルを区別した。この結果を援用してミスタイプと考えられる遺伝子座を検出して、取り除いた。新しいデータセットで連鎖地図を作製したところ、以前よりも低いLOD値設定でも連鎖群を分離する事が可能となった。最終的に、LOD4.2、θ<0.30の基準で13個の連鎖群に64個のESTマーカーを含む438個のマーカーを配置することができた。 また、本研究で作成されたESTマーカーをロシアのバイカル湖におけるハイマツとシベリアマツの交雑帯の解析に用いた。3個の種特異的EST、父性遺伝のcpDNA、そして母性遺伝のmtDNAをマーカーとして解析した結果、ハイマツが常に母方として雑種を形成していることが分かった。また雑種は全てF1であり、浸透性交雑は起きていない事が示唆された。日本におけるハイマツとキタゴヨウの交雑でもハイマツが常に母方となっており、一方向性の交雑不和合性が存在し、交雑の方向性を決定している可能性がある。
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