研究概要 |
本研究は、菌根性のキノコ類であるオニイグチ類を材料にして、そのDNAの塩基配列解析をすることにより、この群に含まれる隠蔽種を認識し、さらに、オニイグチ類の菌根の菌類と植物それぞれのDNAを解析することで、どのような組合せで共生しているのかを明らかにすることがその目的である。今年度は本研究の最終年度であり、昨年に引き続いて以下の解析を行った。オニイグチ類の複数のDNAタイプが同所時に混在して存在し、さらに宿主樹木もマツ科のアカマツからブナ科のシイ、カシ、コナラなどの常緑性および落葉性樹種まで様々なものが共存して生育している京都市の吉田山において、オニイグチ類の子実体(キノコ)およびその直下にある菌根の採集を行った。得られた子実体サンプルについてミトコンドリアDNAのタイプを決定し、さらに他の複数の核DNAマーカーを用いて同じサンプルを解析することによって、ミトコンドリアDNAタイプ間では遺伝子流動が全く見られことを明らかにすることができた。次に同じ地域で採集した菌根の菌体と植物体それぞれのDNAを菌特異的なミトコンドリアDNA用増幅プライマーおよび植物特異的な葉緑体DNA増幅用プライマーを用いて解析することによって、どのDNAタイプのオニイグチ類がどの樹種を宿主にしていたかを明らかにした。オニイグチ類の複数のDNAタイプその宿主になりうる複数の樹種が混生する場所で、このような解析を行うことにより、オニイグチ類の個々の生物学的種ごとに、その宿主特異性がどのようになっているかを明らかにすることができる。また、菌根が得られた周囲約10mに生育している樹種を記録し、それと比較することによって,各隠蔽種の宿主選好性についても明らかにすることができた。その結果、ただ一つのDNAタイプのみがアカマツを宿主とすることができるだけでなく、これを選好していることが明らかになった。
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