研究概要 |
大腸菌Fプラスミドの複製開始タンパク質RepEには単量体と二量体という二つの分子会合状態があり,その分子会合状態の違いで異なる機能を有する.RepEの単量体は複製起点に結合する複製開始因子であるが,野生型である二量体はrepE遺伝子のオペレーター領域へと結合し転写抑制因子として働く.本研究では,野生型RepE二量体のX線結晶構造解析を目的として,大腸菌における低温での発現誘導,高塩濃度存在下での精製を行い,従来よりも効率的に野生型RepE二量体の精製標品を得ることに成功した.この精製RepEタンパク質とrepE遺伝子のオペレーター配列を含むDNAとの複合体を調製して,X線結晶構造解析可能な結晶を得て,SPring-8などの放射光施設にてX線回折強度データを収集した.X線結晶構造解析における位相決定には,単量体型RepE変異体の立体構造を利用した分子置換法を適用し,金原子とヨウ素原子を含む誘導体結晶との同型置換法を併用することで良好な電子密度を得て,RepE二量体-DNA複合体の分子モデルを構築,精密化によって最終の立体構造が得られた.二量体と単量体の立体構造比較から,RepEタンパク質分子内に存在する二つの機能ドメインの基本構造がそれぞれの分子会合状態間で保たれているのに対して,二つのドメインを連結するリンカーの立体構造とドメイン間の相対配置が大きく異なることを明らかにした.さらに,Fプラスミドの複製開始に必要不可欠なDnaK分子シャペロン群との作用領域がドメイン間リンカーとその近傍に予想されることから,DnaKやDnaJとの相互作用によるRepEドメイン間リンカー領域の局所的な構造変化が発端となって,RepE分子内のドメイン再配置と二量体解離が誘起され,その結果RepEタンパク質にDNA複製開始因子としての機能が発現するという機構を提案した.
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