研究課題
寄生虫の蛋白質をターゲットにした抗寄生虫薬を蛋白質立体構造から論理的に設計することを目指して、これまでの研究で、回虫成虫ミトコンドリア膜内に存在するフマル酸還元酵素の立体構造を2.7Å分解能で明らかにした。しかし、結晶の質にばらつきがあって常にX線解析可能な分解能を有する結晶が得られるわけではなかった。本研究では、様々な化合物が結合した構造を解析することで本酵素の構造・機能相関の解明と阻害剤の分子設計を行うために、まず、常にある程度の分解能を持つ結晶が再現よく得られるよう、サンプルの調製法、結晶化条件の最適化、X線回折実験の際の結晶凍結方法について検討した。その結果、精製の最終段階でゲル濾過を行うこと、結晶化に使うサンプルは直前に十分な高速遠心や超遠心を行うこと、結晶が析出したら直ちに凍結すること、で従来よりも高品質な結晶が再現よく得られることが分かった。次に、本酵素に対する阻害剤との複合体結晶を調製した。初めに、共結晶化法を試みたが、結晶を得る事ができなかった。そこで、ソーキング法で複合体結晶を調製し、X線回折実験を行った。使った阻害剤(フルトラニル、アトペニン)のうち、フルトラニルは回虫成虫フマル酸還元酵素を特異的に阻害するのに対して、アトペニンは哺乳類の類縁酵素コハク酸脱水素酵素も阻害する。構造解析の結果、フルトラニルは回虫成虫フマル酸還元酵素のロドキノン結合部位に結合していること、トリプトファンとの間にC-H…π相互作用が働いていることが分かった。しかし、哺乳類コハク酸脱水素酵素ではこのトリプトファンがメチオニンになっているので、このような相互作用が働いていないと考えられる。すなわち、このC-H…π相互作用が、回虫成虫フマル酸還元酵素に対する特異性に関係していることが明らかになった。
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