感染微生物に対する自然免疫反応は、微生物の表層成分が作り出す分子パターンを非自己として認識することで開始される。カブトガニの自然免疫の中心をなす顆粒細胞は、リポ多糖(LPS)に鋭敏に反応するが、ほ乳類とは異なった新規のLPS受容体が推定されていた。川畑らは、これまで、LPSで誘導される顆粒細胞の開口放出反応の微量測定系を確立し、細胞表面に存在するプロテアーゼ前駆体(ファクターC)がLPS認識に必要不可欠なバイオセンサーであることを見いだした。さらに、LPSによる開口放出には、三量体Gタンパク質やホスフォリパーゼCが関与していることが推測された。今年度は、ファクターCのLPS結合ドメインを決定するために、種々の組み換えタンパク質を作成し、LPSとの結合活性を解析した。その結果、LPS結合には、ファクターCのアミノ末端側(Cys-richドメイン)に存在する-Arg-Trp-Arg-配列が必須であることが判明した。このトリペプチド配列がβ-シート上にあると仮定すると、同方向を向いた2つのArg側鎖がLPSのリピドA部分のグルコサミン2糖に結合したリン酸と結合し、さらにTrp側鎖が、グルコサミンの六員環とスタッキングすることで、LPSを特異的に認識することが可能となる。このトリペプチドモチーフ(-basic-aromatic-basic-)は、既知のほ乳類LPS結合タンパク質(LBP、MD-2、CAP18など)にも見られる配列であり、LPS認識に必要とされるタンパク質の構造様式は、種を超えて保存されていると思われる。
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