スフィンゴミエリン代謝に影響を及ぼすような因子を同定することを目的として、レトロウイルスベクターを用いたヒトcDNA発現ライブラリーをCHO細胞に導入後、スフィンゴミエリン結合性毒素・ライセニンに対して耐性を付与するようなcDNAを探索した。その結果、カゼインキナーゼIγ2(CKIγ2)をコードするcDNAが得られた。CKIγ2高発現細胞ではセラミドのスフィンゴミエリンへの変化が低下しているが、スフィンゴミエリン合成酵素の活性は正常であった。そこで、セラミドの小胞体-ゴルジ体間輸送への影響を調べたところ、CKIγ2高発現細胞では当該輸送能が低下していることが明らかとなった。小胞体からゴルジ体へのセラミド輸送を担う蛋白質CERTが、CKIγ2高発現CHO細胞では多重リン酸化状態になっていた。この細胞に野生型CERTを過剰発現してもほぼ全てのCERTは多重リン酸化状態となり、スフィンゴミエリン生合成は低いままであるが、多重リン酸化を受けないS132A変異体を発現させるとスフィンゴミエリン合成は正常レベルに回復した。HeLa S3細胞において、RNA干渉法により内在性のCKIγ2 mRNAレベルを低下させるとCERTの多重リン酸化型が低リン酸化型へと移行した。CKIγの他のアイソフォームであるCKIγ1およびCKIγ3のノックダウンではCERTのリン酸化状態にほとんど変化がなかった。これらの結果から、CKIγ2はCERTの機能を負に制御する多重リン酸化に関わることが明らかとなった。
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