研究概要 |
P型カチオン輸送ポンプ(ATPase)の代表的メンバーである小胞体Ca2+ポンプはATP加水分解に共役してCa2+を細胞質から小胞体内腔に数千倍もの濃度勾配に逆らって能動輸送する。その細胞質領域は3つの大きなドメイン ; N(Nucleotide binding), P(Phosphorylation), A(Actuator)を形成し、膜ドメインは10本の膜貫通ヘリックス(M1-M10)を形成する。Ca2+輸送サイクルでは、ATPからリン酸基がAsp351(Pドメイン)に転移して自己リン酸化中間体(E1PCa2)を形成する。本研究(平成20年度)では、E1PCa2の異性化とCa2+放出は二つのステップから成り(E1PCa2→E2PCa2→E2P+2Ca2+)、これらのプロセスでは細胞質3ドメインが逐次的に大きく動きその相互作用を変化させることを明らかにし、さらに具体的にAおよびPドメイン、M2先端の7残基(Y122/L119(M2), I179/L180/I232(A), V705/V726(P))がE2Pで集合して形成する疎水性クラスターは、輸送部位におけるCa2+親和性を下げ、内腔ゲートを開きCa2+を放出させる機能(E2PCa2→E2P+2Ca2+)を担っていることを解明しCa2+放出のエネルギー共役の理解を発展させた。他方、E1PCa2の構造アナログをメタルフッ素化合物の利用により開発し、今後この複合体の安定化および構造帰属を行なうことにより、E1PCa2の原子モデル解明およびCa2+放出機構の構造的解明を可能とした。
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