セプチンは、チューブリンやアクチンと並ぶ普遍的なヌクレオチド結合性細胞骨格蛋白質であるが、阻害剤がないことや、サブユニット間の機能重複などが解析を阻んできた。本研究では、生化学、RNA干渉、逆遺伝学、超微形態解析、行動解析などの手法を融合し、セプチン集合体が細胞分裂装置やシナプス近傍における超分子複合体の局在や安定化のための足場ないし拡散障壁として機能することを明らかにした。この知見に基づいて臨床検体を探索し、セプチン系の破綻が神経変性疾患の病態に関わることを見いだし、マウスモデルを用いて病態メカニズムを検証した。一連の解析により、セプチン・スカフォールドが単細胞レベルから高次脳機能まで多彩な生命現象を支える重要なシステムであることを確立した。具体的な成果の一部を挙げると、GFP-septin発現培養神経細胞株を用いて、FRAP(光退色後蛍光回復)法により細胞膜直下のセプチン構造と動態を解析し、アクチンより代謝回転が数倍緩慢(すなわち安定)な構造体を形成していることを明らかにした。さらに、細胞膜直下のセプチン系とアクチン系が相互依存的な関係にあることを細胞薬理学的手法やRNAiを用いて明らかにした。ラット培養神経細胞抽出物からセプチン複合体会合蛋白質を精製し、マススペクトロメトリー(フィンガープリンティング法)で同定した。このうちセプチン系の制御に関与する可能性のある少数の候補因子に関して、個々にRNAiで枯渇させた場合のセプチンの異常、逆にセプチン系を破綻させた際の候補因子の異常を蛍光顕微鏡・電子顕微鏡を用いて観察した。
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