研究概要 |
初期発生の過程において、からだの前後軸に沿って規則正しく並ぶ中胚葉組織に、体節がある。体節は、主に骨格筋や中軸骨格を形成する前駆体としてよく知られている一方で、そのうちのいくつかの細胞集団は、背側大動脈などの血管形成にも寄与することが知られている。これまでの研究から、1)正常発生過程において、各体節の後半部でNotchシグナルが特異的に活性化している、2)活性化Notchを体節に発現させると、これらの細胞は体節の後半部に局在する。このとき前半部においては細胞死をおこす。3)Notch活性化細胞はその後腹側に移動し、最終的には背側大動脈の血管内皮へと分化する。4)これらの細胞移動は、背側大動脈によって誘因される。5)この細胞移動には、Notchの下流で働くephrinB2が必要である、などを見出している。 体節由来のNotch細胞が参入する以前では、背側大動脈は異なる組織(側板中胚葉)に由来する細胞により構成されている。そこで本年度は、昨年度の成果を受け、背側大動脈に辿りついた体節後半部由来細胞の、その後の運命を追跡した。この目的のために、最近我々が開発したトランスポゾンTol2-Tet-in ovoエレクトロポレーション法を組み合わせた(Sato, et. al., Dev. Biol.,2007'Watanabe, et. al.,Dev. Biol.,2007).この方法を用いると、導入遺伝子が染色体上に安定的に組み込まれ、かつ発現時期を人工的にコントロールできる。解析の結果、Notch活性細胞は、分節パターンに従って背側大動脈に移動した後、徐々に背側大動脈の広域領域に拡がり、最終的には側板中胚葉由来の細胞をおしのけて動脈すべての内皮組織を構築することがわかった。血管形成過程における細胞のふるまいとその分子メカニズムに関して、全く新しい知見を得ることができた。
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