1、昨年度までにトランスジーン挿入劣性致死変異体としてExt2変異を同定した。Ext2は、プロテオグリカンコアタンパク質にヘパラン硫酸鎖を付加重合する活性を持つため、ホモ変異胚は、ヘパラン硫酸鎖を欠損していた。Ext2欠損胚では、FGFシグナルの伝達が見られないため、FGF4リガンド、FGF受容体、コアタンパク質、ヘパラン硫酸鎖の発現を胚体外外胚葉形成過程で、タンパク質レベルで解析した。結果、コアタンパク質はユビキタスに発現する一方、ヘパラン硫酸鎖は、胚体外外胚葉特異的に発現していた。更に、FGF標的分子の発現は、Fgf4mRNAが発現するエピブラストでは観察されず、ヘパラン硫酸鎖、FGF4、FGF受容体が共局在する胚体外外胚葉でのみ観察された。従って、ヘパラン硫酸鎖は、リガンドの局所的な分布に必須であることが示唆された。2、細胞膜上のヘパラン硫酸鎖と分泌された細胞外基質のヘパラン硫酸鎖のどちらが働いているか検討するため、Ext2ホモ胚に野生型細胞を導入したモザイク胚を作成し、FGF下流分子の発現を単一細胞レベルで解析した。胚体外外胚葉の発生過程でErr-bの発現を、野生型細胞をb-galで、変異型細胞をヘパラン硫酸鎖の発現でマーキングした。その結果、野生型細胞と隣接する欠損細胞では、Err-bを発現できるが、野生型細胞から離れた欠損細胞では、Err-bを発現できないことから、ヘパラン硫酸鎖は、隣接細胞でも機能することが分かった。更に、中胚葉形成過程についても同様に解析したところ、ヘパラン硫酸鎖欠損細胞で、細胞自律的にE-cadherinの発現が低下不全を示した。以上の解析から、細胞膜上に局在するヘパラン硫酸鎖がFGFシグナル伝達に関与し、細胞外基質のヘパラン硫酸鎖は機能しないことが示唆された。
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