本研究課題では、分子進化解析による分岐年代推定にとって不可欠な基準分岐年代情報を、多くの系統と年代について高い精度で求めるために、(1)既にゲノム配列が得られている生物などを調査し、多くの生物種間で保存している安定な遺伝子のリストを作成し、(2)地質学や地球物理学などによって年代推定がなされている地殻変動を調べ、(3)それらの地殻変動による地理的隔離によって種分化したと考えられる生物群から(1)でリストされた遺伝子配列を収集し、(4)それら全ての遺伝子をまとめて、あるいは、遺伝子毎に分子系統解析を行い、生物種毎、あるいは、遺伝子毎の進化速度を正確に計測し、(5)それらの結果を用いて基準分岐年代と分子進化距離(速度)の関係を計算することを目指している。初年度である平成18年度において、まず、比較的よく調べられているアフリカ大陸と南アメリカ大陸の分離に着目した。また、分類上、目レベルまで第一次または第二次淡水魚で占められている分類群に属する魚類の中から、両大陸の在来・固有淡水魚を選定した。これまでに、天然採取された65種の生体を取得し、飼育しつつ核ゲノムDNAを採取した。一方、これまでにゲノム配列が決められている4種の魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ、イトヨ、フグ)のデータを調べ、いずれのゲノムにも重複遺伝子が無く、連続したエキソン領域で500bp以上(短いイントロンを含む場合もあり)が4種間で十分に保存しており、分子系統関係が種の系統関係と矛盾しない遺伝子を採した結果、55個の遺伝子が解析対象候補となった。それらの保存されたエキソン領域を増幅するためのプライマを配列比較解析に基づいて設計し、上記のDNAサンプルに対して順次PCRとダイレクトシーケンシングを行っている。今後、それらの配列を用いて、地殻変動の時期と種分化の時期との間の相関が種間で一致して見られるかどうかを調べる。
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