本研究課題では、種分岐年代推定のための基準分岐年代情報を、多くの系統と年代について高い精度で求めることを目的とし、特定種分岐の直接的原因となったことが明らかな地殻変動の発生年代を用いることを目指している。本研究においては、生物学とは独立に地球科学において比較的詳細に年代推定などが行われているアフリカ大陸と南アメリカ大陸の分離に着目している。これらの大陸の分離(ゴンドワナ大陸の分断)によって種分化したと考えられる生物系統として、分類上、目レベルまで淡水魚で占められている分類群に属する魚類の中から、両大陸の在来・固有淡水魚を選定し、天然採集された約80種の生体を入手し、飼育しつつ核ゲノムDNAを抽出した。一方、既にゲノム配列が決まっている4種の魚類およびヒトのゲノムデータを比較し、いずれのゲノムにも重複遺伝子が無く、連続したエキソン領域で500bp以上が5種間で保存しており、分子系統関係が種の系統関係と矛盾しない遺伝子を探し、58個の保存非重複遺伝子領域を解析対象候補とした。それらの保存領域から最終的に特に保存度が高い9領域について14種の在来・固有淡水魚の配列決定を完了し、分子系統解析と統計解析を実施した。その結果、シクリッド、カダヤシの2系統において、アフリカ大陸と南アメリカ大陸のそれぞれに棲息する種が単系統性を示し、かつ、両大陸間での種分岐が2系統で同じ時期に起きたことが統計学的に示された。これは、2系統における初期の種分化が共通の大陸分断による地理的隔離によって引き起こされたことを強く示唆している。他の硬骨魚と四肢動物を含む31種間の解析を行ったところ、ミトコンドリア遺伝子や上記の特別な条件を課さずに選んだ遺伝子を用いた解析結果とは異なる推定結果が得られた。したがって、本アプローチは新たな進化情報を提供する。本研究成果は論文としてまとめ、投稿中である。
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