ヒトは長寿の動物に数えられるが、長い寿命を支えるには、細胞の比較的長い分裂寿命とゲノムの安定性は欠かせない。本研究の目的は、生物の系統によって異なる細胞の寿命(分裂限界)とゲノムの安定性について、霊長類の系統(原猿・旧世界ザル・類人猿(ヒト含む))間で詳細に比較検討し、寿命の長大化とホミニゼーションに関連した細胞レベルにおける進化を明らかにすることである。具体的には、細胞の寿命に関しては、類人猿の付着系細胞(線維芽細胞・上皮細胞)の初代培養から分裂停止(あるいは、不死化)に至るまでの、「通常の老化過程」、「脱老化と延命」、「不死化」の3段階における、細胞・染色体・ゲノムレベルにおける変化を追跡し、加齢の段階問に存在する壁を越える機構の解明を目指す。一方、ゲノム安定性に関しては、環境毒として変異原を作用させゲノム変化を誘発し、それらを染色体・DNAレベルで検出し、ゲノムを安定に保つ機構の系統差を明らかにし、細胞レベルでのホミニゼーションに迫る。 本年度は、各地の動物園・猟友会の協力を得、資材収集に力を入れた。国内で30頭ほどしかいないオランウータンのリンパ系細胞と線維芽細胞系を樹立した。比較検討のために、霊長類以外の試料、食肉目・偶蹄目・ウサギ目・鰭脚目等も積極的に集め、経代シリーズの作製をおこない、上記の検索を開始した。また、培養技術の向上に努め、これまで特殊な培地が必要とされていた有袋類の細胞が通常の培養システムでも経代培養できることを示した。
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