研究概要 |
ヒトは長寿の動物に数えられるが,長い寿命を支えるには,細胞の比較的長い分裂寿命とゲノムの安定性は欠かせない。本研究の目的は,生物の系統によって異なる細胞の寿命(分裂限界)とゲノムの安定性について,霊長類の系統(原猿,旧世界ザル,類人猿(ヒト含む))間で詳細に比較検討し,寿命の長大化とホミニゼーションに関連した細胞レベルにおける進化を明らかにすることである。具体的には,細胞の寿命に関しては,類人猿の付着系細胞(線維芽細胞,上皮細胞)の初代培養から分裂停止(あるいは,不死化)に至るまでの,「通常の老化過程」,「脱老化と延命」,「不死化」の3段階における,細胞,染色体。ゲノムレベルにおける変化を追跡し,加齢の段階間に存在する壁を越える機構の解明を目指す。 本年度も,各地の動物園。猟友会の協力を得,資材収集に力を入れた。将来への投資と比較検討のために,霊長類以外の試料,すなわち,有袋類,食肉目,偶蹄目,ウサギ目,鰭脚目等も積極的に集め,経代シリーズの作製をおこない,70個体30種ほどの試料を培養系に移すことができた。培養技術の向上と結果の安定化に関しては,培地の検討と試料調整により,初心者でも良好な成果が出る培養システムを構築した。全ての培養が終末に至っているわけではないが,有袋類,翼手目,ツキノワグマ等で比較的大きなPDLを示した。細胞,及び,ゲノムの維持に重要な役割を果たすp53について比較したところ,小型類人猿とヒトを含む大型類人猿で,プロリンリッチ構造に差異が見られた。 線維芽細胞からiPS細胞が作られる今日,絶滅危惧種の継代線維芽細胞は将来,種の保全活動への寄与も大いに期待できるものである。
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