研究概要 |
体内時計の夜型化に関連のある環境および生理的な因子を明らかにすることを目的として実験を行った.インフォームドコンセントを得た健常な男子大学生14名を対象に,3夜連続で終夜覚醒と昼間睡眠(10:00〜16:00)を繰り返した.第1夜は,恒暗条件下で唾液中メラトニン濃度の分泌開始時刻(DLMO)と直腸温のnadir時刻(直腸温が最低となる時刻)を測定し,これらを概日リズム位相(体内時計の夜型化)の指標とした.夜型化に関連する候補要因として以下のものを測定した.1)コンスタントルーチン下で測定した体温nadir時刻から習慣的な起床時刻までの時間,またはDLMOから就床時刻までの時間(位相角差),2)第1夜から第2夜にかけて恒暗条件下で生じた位相の後退量,3)光の感受性の指標として,第2夜の夜に1000ルクスの光曝露を4時間行った際に生じたメラトニンの抑制率.4)実生活の中で習慣的な起床後と就寝前に浴びている光の量.相関分析の結果,概日リズム位相が遅い個体ほど,概日リズム位相と睡眠覚醒タイミングの位相角差が小さいこと(DLMOの後すぐに就床,あるいは体温nadirの後すぐに起床),恒暗条件下で生じた位相後退量が大きいこと,光に対するメラトニンの抑制率が小さいこと,起床後6時間の間に250ルクス以上の光に曝露されている時間が短かった.以上の結果より,概日リズム位相が後退している個体は,概日リズム位相に対して睡眠覚醒のタイミングが前倒しになっている(位相角差が小さい)ことが分かった.この結果は,概日リズムの位相が後退している個体ほど,概日リズムの位相が前進しやすい時間帯(体温nadir時刻のすぐ後)に多くの光を浴びている可能性を示唆している.しかし,実際に概日リズム位相の朝型化がみられないのは,習慣的に起床後に浴びている光の量が少ないこと,光に対する概日リズムシステムの反応性が小さいこと,あるいは内因性の概日周期が長いことが関係している可能性が示唆された.
|