本課題では稲の発育の環境応答性、とくに複雑系としての圃場環境(フィールド環境)に対する応答性を解明する新たなアブローチを開拓する。具体的には、量的遺伝子座(QTL)解析法を"農業気象学的発育モデル"と結びつけることにより、「時々刻々と変化する複雑なフィールド環境(気温や日長)に対して作物発育(栄養成長や花芽分化、出穂など)を制御する各種のQTLがどのように応答しながら個体発育を駆動させているか?」という問題を定量的に解析できる手法を確立する。本年度(繰越期間も含む)は、宮城、東京、石川の計3地点でイネQTLマッピング集団(アキヒカリXIRAT109戻し交配由来組換え近交系106系統)を、それぞれ2作期栽培し、出穂日を測定した。出穂日を対象としてQTL解析を行ったところ、検出されたQTLは栽培地点および作期によって顕著に異なっており、出穂日のQTLを"農業気象学的発育モデル"によって解析するうえで、申し分ないデータであることが確認できた。なお、用いた連鎖地図はマーカー密度がやや疎であり、QTL解析と発育モデル解析の融合を目指す本計画にとってはやや不十分であるため、連鎖地図を新たに作成した。すなわち、一世代前のマッピング集団の各糸統の種子を播種し、系統ごとにDNAをバルク採取した上で、160個のSSRマーカーを用いて遺伝子型判別を行い、連鎖地図を構築した。以上のことにより、本計画に必要なデータと材料の構築をすべて完了させることができた。
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