本課題では稲の発育の環境応答性、とくに複雑系としての圃場環境(フィールド環境)に対する応答性を解明する新たなアプローチを開拓する。具体的には、量的遺伝子座(QTL)解析法を"農業気象学的発育モデル"と結びつけることにより、「時々刻々と変化する複雑なフィールド環境(気温や日長)に対して作物発育(栄養成長や花芽分化、出穂など)を制御する各種のQTLがどのように応答しながら個体発育を駆動させているか?」という問題を定量的に解析できる手法を確立する。具体的には、(1)宮城、東京、石川の計3地点でイネQTLマッピング集団(アキヒカリ×IRAT109戻し交配由来組換え近交系106系統)を、それぞれ2作期栽培して出穂日を測定し、(2)出穂までの毎日の気温と日長をもとにDVI法による"農業気象学的発育モデル"を構築し、(3)その発育モデルから推定した個々の組換え近交系の発育パラメータをQTL解析にかけることにより、温度感受性や日長感受性といった発育応答性を制御するQTLをマッピングすることを試みた。この方法により、これまでは単純に出穂日のQTLとしてしか認識されてこなかった染色体領域が、温度感受性や日長感受性といった異なる環境応答能に分類された。ただし、検出された環境応答能の大半のQTLの作用力は余り大きなものではなかった。これは、他地点調査法を導入することによって、水温と気温の差の地域格差が誤差として組み込まれてしまったことによるものと考えられた。この点に関する改良が今後の研究課題であると考えられた。
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