トマトなどの園芸作物において、品質や耐病性などに関わる様々な有用形質を有する近縁野生種の遺伝子を通常の交雑によって導入する場合、経済栽培を行う際の不良な形質に関わる染色体領域が混入する問題がある。このような育種上あるいは研究上の問題を解決する一つの方法として、染色体断片導入系統(Introgression Line ; IL)の利用がある。本研究の目的は、第8染色体における染色体断片導入系統の一つ、IL8-3における糖度の増進等に関わる形質の解析を行うとともに、第8染色体に関わる有用遺伝子座を吟味することである。材料には、染色体断片導入系統の親系統である加工用栽培品種のSolanaum lycopersicum M82と、M82に近縁野生Solanum pennellii(LA716)の染色体断片を第8染色体の一部に導入した系統であるIL8-3のホモ個体(IL8-3)およびヘテロ個体(ILH8-3)を用いた。高糖度に関わる遺伝子の探索を行ったところ、M82とIL8-3系統において発現差のある遺伝子としてヘキソーストランスポーターが得られた。トマトには少なくとも3種類のヘキソースとランスポーター遺伝子が存在しているが、そのうちの1つがIL8-3系統の高ヘキソース含量に対応する発現様式を示した。IL8-3系統の高糖度化にはスクロースではなくヘキソースの蓄積が寄与していることも示されたことから、ヘキソース輸送系が糖度に関与していることが明らかとなった。また、染色体の当該領域におけるDNAマーカーの改変、開発を進め、高糖度化に関わる遺伝子のマソピングを行い、糖度を制御する領域を特定した。
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