研究概要 |
都市内にパッチ状に存在する樹林地において、鳥類の生息状況に影響を与える要因として、樹林地の面積、植生の構造、孤立性が指摘されてきた。近年、パッチ状に存在する生息地を取り巻く空間(以下、マトリクス空間)が、補助的な生息場所や移動路として機能することにより、パッチ状生息地の孤立性を緩和している可能性が指摘されているが、研究例は未だ少ない。本研究は、都市の樹林地を取り巻くマトリクスが鳥類にとってどのような空間であるかを明らかにし、都市における鳥類の生息状況を、パッチ状の樹林地のありかたとマトリクスのあり方から予測できるようなモデルを構築することを目的とする。今年度は、東京の都心から西郊にかけて9、千葉県北西部に4のパッチ状樹林地(面積6-10ha)を設定し、越冬期の鳥類調査を実施した。加えて、各樹林地の周囲に6-18の調査地点を設けてマトリクスの鳥類相を調査した。さらに、本研究に先行して行ってきた調査結果の解析を進め、関連する知見の蓄積に努めた。一連の調査ならびに分析の結果、大規模な移動を行う渡り鳥に対しては広い範囲のマトリクス空間の影響が現れ得る可能性が認められた。限られた範囲内で生活を完結させる留鳥については、中・大規模;樹林地ではマトリクス空間の影響が認めにくいものの、小規模な樹林地では隣接するマトリクス空間の影響が認められた。生息に必要な条件が十分に満たされていない小規模樹林地では、鳥類がマトリクス空間に依存する度合いが大きくなる結果ではないかと考えられた。また、マトリクス空間における樹木の存在が、都市化されたマトリクス空間の鳥類への悪影響を緩和する可能性が認められた。今後、樹林地やマトリクス空間における鳥類の生息,生態,行動に影響するマトリクス空間の属性や、マトリクス空間を利用しにくい鳥類に共通する属性について、より詳細に解明する必要がある。
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