研究概要 |
2007年4〜6月に,13箇所のパッチ状樹林地とその周辺のマトリクス空間内で鳥類調査を実施した。調査結果を,越冬期の調査結果とあわせて解析したところ,パッチ状樹林地においても,またマトリクス空間においても,出現する鳥類のうち樹林性と考えられるものの種数は,マトリクス空間における開放的空間(農耕地,草地)の比率が高いほど多くなる傾向が認められた。パッチ状樹林地内では,越冬期においては下層植生の発達が樹林性鳥類の種数と正に相関していたが,繁殖期にはそうした効果が確認できなかった。 樹林地内の樹林性烏類の種数がマトリクス空間における開放的空間の比率に影響を受ける理由を検討するため,2007年12月〜2008年3月にかけて,パッチ状樹林地の境界を越えて烏類が移動する状況について調査した。その結果,移動が確認された烏類の大半はジェネラリスト種,あるいはマトリクス選好性種で,樹林性種については少数の移動が確認されるにとどまった。移動の起こりやすさは境界に隣接するマトリクス空間の状況によって異なり,さらに種によっても異なっていた。 マトリクス空間の状況がパッチ状樹林地内の樹林性鳥類に影響する理由を,以上の結果から考察した。当初想定された可能性として,まずマトリクス空間が補助的な生息場所として利用されることが挙げられていたが,樹林性種のかなりの種がマトリクス空間では確認されず,また利用していると考えにくいこと,境界部での移動調査から日常的な移動はほぼ起こっていないと考えられること,から,その可能性は低いと考えられた。もう一つの可能性であるマトリクス空間の移動可能性がむしろ重要であり,樹林性種の生息場所間の移動が容易になることが樹林性種の生息を助けているものと考えられた。
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