研究概要 |
病原菌の病原性因子の解析を電顕法、生化学法、分子生物学法を用いて行った。 1.いもち病菌の細胞外物質(ECM)の化学組成を免疫組織化学法と免疫電顕を用いて調査した。その結果菌の感染器官から分泌されたECMは、哺乳類の細胞接着因子(collagen VI, fibronectin, vitronectin, laminin)の抗体と細胞膜貫通型タンパク(integrin)の抗体に陽性反応を示した。そのためECMに細胞接着因子様物質とintegrin様物質が存在することが分かった。細胞接着因子はcollagenaseにより特異的に分解されることが分かっているので、宿主葉に成長させた菌の感染器官にcollagenaseを処理すると藻表面から剥離した。胞子懸濁液に本酵素を添加して宿主葉に接種したところ病班形成が制御された。 2.ナシ黒斑病菌の付着器から生じた貫穿菌糸に活性酵素が生成した。この活性酵素を抗酸化剤で消去すると菌は感受性誘導した抵抗性ナシ葉に感染できなくなった。この結果は貫穿菌糸の侵略に活性酵素が関わっていることを示唆する。本菌のNADPE oxidaseのNox AのDNA破壊株とRNAサイレンシング株を作製して、両株を感受性誘導した抵抗性ナシ葉に接種すると、完全に感染を阻止できなかった。そのため、今後は、Nox B破壊株と二重破壊株を作製して活性酸素と侵略力の関係を更に調査する予定である。 3.ナシ黒斑病菌のAK毒素は宿主細胞膜に障害を特異的に引き起こし障害効果だけを果たすと考えられてきたが、毒素により宿主は一方的に殺されているわけではないことが分かった。毒素により宿主の細胞膜変性部には多量の細胞膜由来の膜片が形成された。急速凍結固定によりこの膜片は電顕試料作製中にできる人工産物でなく、病理学的反応物であることが分かった。この膜片に生じた活性酸素により宿主細胞膜画分に過酸化脂質が形成された。このことから膜片の活性酸素は膜脂質の過酸化を引き起こすことが分かった。有害な過酸化膜脂質は細胞外に放出することによって宿主細胞は毒素障害を修復した。
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