研究概要 |
植物病害における3つの病原性因子の役割について細胞学・生化学・分子生物学解析を行った。 1)コムギいもち病原菌が植物表面で形態分化して、感染器官を形成する。この感染器官の周辺に細胞外物質が生産される。この物質に含まれる成分を免疫学的調査より数種の細胞接着因子様物質(fibronectin, vitronectin, laminin, collagen VI)とintegrinを含むことを推定した。細胞外物質にgelatinaseやcollagenaseを処理したところ、物質は分解され病原菌は植物表面から剥離したが、他の酵素(DNase, RNase, proteinase, peptidase)を処理しても菌は剥離しなかった。Collagenaseと病原菌胞子液の懸濁液を宿主に接種したところ病害抑制が起こった。これら結果から細胞外物質が宿主粘着に関わり、粘着を阻止すると病害を抑制できることが分かった。 2)ナシ黒斑病菌の付着器のpenetration pegに活性酸素が生成することが分かっている。活性酸素のアスコルビン酸やDPIといった阻害剤をナシ葉に処理すると病害が抑制された。次に、菌のNADPH oxidaseのNoxA,とNoxBを破壊した突然変異体を作出して、病害抑制が起るかどうかを調査した。その結果、NoxA突然変異株は病原性を維持していたのに反し、NoxB突然変異株は病原性が抑制された。Pegに生じる活性酸素が病原性に関わる働きをし、特に、NoxBがその主たる役割を果たすことが証明できた。加えて、突然変異体は野生種と比べて菌糸分岐が多くみられた。活性酸素発現を抑制すると細胞壁合成と菌糸分岐に影響を及ぼすことが示唆された。 3)ナシ黒斑病菌が生産するAK毒素は感受性ナシにのみ細胞膜変性を引き起こす。この変性に伴い変性部位に多量の膜片が生じる。毒素処理により宿主細胞膜ではNADPH oxidaseを活性化して活性酸素を生成し、宿主細胞膜の脂質過酸化が起こっていることを証明した。傷害を受けた過酸化膜は細胞の恒常性維持のため細胞外に切り出されて生存を図っていることが分かった。
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