研究概要 |
病原体に感染した植物細胞が病原体を封じ込めるために起こす過敏感細胞死は植物の最も効率的な感染防御システムであるが、その分子機構、とりわけ、細胞死誘導に関わる低分子物質の実体については不明な点が多い。本課題では、タバコモザイクウイルス(TMV)・タバコを用い、過敏感細胞死を誘導する低分子物質の精製・単離・特性解析を行なうことを目的として研究を行った。 TMV感染に対する過敏感細胞死の非許容温度である30度での細胞死誘導能を指標に、TMV感染タバコ葉から細胞死誘導物質の探索を行なったところ、酢酸エチル可溶中性区に細胞死誘導活性が検出できた。そこで、本活性の活性成分を特定するべく、10kg新鮮重の感染葉を用いた大量抽出を行ったところ、活性を示す単一の物質を単離することに成功した。MS及びNMRによる構造解析の結果、本物質はcis-abienolと判明した。cis-abienolはジテルペンの一種であり、興味深いことに、研究代表者らがストレス応答性植物MAPキナーゼ(WIPKとSIPK)の活性化因子として単離したジテルペン化合物のWAF-1(Seo et al.2003 Plant Cell 15,863)と非常に良く似た構造をしている。cis-abienol処理は防御遺伝子群の発現を誘導することもわかった。 過敏感細胞死のジグナル伝達にはMAPキナーゼが重要な役割を演じていることが知られている。過敏感細胞死におけるcis-abienolとMAPキナーゼの関係を明らかにするための第一歩として、まずは、未だ不明であったWIPKとSIPKの過敏感細胞死に果たす役割を解明することから始めた。WIPKとSIPKの各RNAi植物を用いた解析から、TMV感染による過敏感細胞死にこれら両MAPキナーゼは必須であることが証明された。過敏感細胞死は傷害応答と一部共通したシグナル伝達経路を有していることから、過敏感細胞死のシグナル伝達機構の理解を深める目的で、上記RNAi植物の傷害応答を調べた。その結果、WIPKとSIPKは防御物質であるジャスモン酸およびサリチル酸の生合成を正及び負にそれぞれ制御していることが判明した。
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