病原体に感染した植物細胞が病原体を封じ込めるために起こす過敏感細胞死は植物の最も効率的な感染防御システムである。本課題では従来あまり着目されてこなかった低分子性の過敏感細胞死誘導因子の探索及び特性解析を通して、過敏感細胞死の分子機構の理解を深めることを目的として研究を行った。前年度までに、タバコモザイクウイルス(TMV)とタバコの組合せをモデル系として、30度(TMV感染による過敏感細胞死の非許容温度)での細胞死誘導活性を指標に細胞死誘導物質としてジテルペンの一種cis-abienolを単離同定した。本年度は、cis-abienolの役割を明らかにするべく、本物質による細胞死の誘導がTMV抵抗性遺伝子Mこ依存するか否かを調べたところ、N非存在下でも細胞死が起きることがわかった。また、cis-abienolが過敏感細胞死に関わるMAPK(WIPKとSIPK)を活性化する物質(WAF-1)と非常に良く似た構造をしていることを踏まえ、cis-abienolによる細胞死にこれらMAPKが必須かどうかを調べる目的で両MAPKの機能が低下した形質転換タバコに本物質を処理したところ、細胞死誘導が抑制されることが判明した。これらの結果は、TMVに感染したタバコにおいては、N遺伝子の機能の発現の有無に関わらずcis-abienolがMAPK依存的な過敏感細胞死の誘導因子のひとつとして働いていることを示唆している。定量測定の結果cis-abienolの内生量はTMV感染後と前では変化がなかったことから、本物質による過敏感細胞死誘導は物質の量的変動そのものではなく、例えば局在が変化するこよなどによるものであると推測された。
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