スパイダーシルクが高機能バイオ繊維として世界的に注目されているにもかかわらず、ほとんど利用されていない。利用されていないのはスパイダーシルクの量産が難しいからである。本研究は、遺伝子組換え技術を用いて、各種の蜘蛛糸をカイコにおいて効率よく大量生産させる系の開発を目的とするが、本年度は、以下の研究を進めた。 1)蜘蛛糸含量を高める研究 研究担当者は、トランスポゾン由来のベクターを用いて日本産ジョロウグモの2種類の糸を吐くカイコを創出したが、そのカイコが吐く繭糸中の蜘蛛糸含量はそれほど高くない。これは、カイコ本来のフィブロイン遺伝子から多量のmRNAが作られるためである。絹フィブロインのmRNA生産を抑えることにより相対的に、カイコに導入した蜘蛛糸含量を高まることは明らかである。本年度は、RNAi法を利用して、カイコ本来のフィブロイン遺伝子をノックダウンし、その効果を調査することを試みた。しかしながら、ノックダウンの効果を観察することはできなかった。 2)日本独自の蜘蛛糸遺伝子の解析 カイコに吐かせる未知の蜘蛛糸タンパク質を探し出し、その塩基配列を調査することも緊急の課題である。蜘蛛糸の遺伝子塩基配列およびアミノ酸配列は、欧米で精力的に研究され、そのほとんどが物質特許として登録されている。欧米で研究されているのは、欧米の蜘蛛である。これに対し、日本に生息する蜘蛛の糸のそれら配列については、ほとんど調査されていない。日本にも、高機能バイオ繊維として注目に値する蜘蛛糸が存在するはずである。欧米の蜘蛛に負けない特性を持つ蜘蛛糸の塩基配列やアミノ酸配列を、日本独自の特許として登録した上で、カイコを用いて大量生産するのが、研究を進める戦略上、必要と考える。そこで日本に生息する蜘蛛の蜘蛛糸の遺伝子配列を解明するため、糸遺伝子のcDNAライブラリー作成を試みた。目下、cDNAライブラリーの解析を行っている。
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