本研究は、鉄栄養に関わると想定される転写因子を同定、解析することにより、鉄栄養に応答する遺伝子の発現制御の分子構造を明らかにすることを目的とし、今年度は、鉄欠乏応答性シスエレメントIDE1、IDE2に結合する転写因子のスクリーニング、およびイネマイクロアレイ法による鉄欠乏誘導性転写制御関連タンパク質の網羅的探索を中心に研究を進めた。 鉄は生命活動に必須な金属元素であり、植物は様々な遺伝子の発現を制御して、鉄を効率的に吸収する。鉄吸収機構を効率的に働かせるために、植物は「シス配列」と「転写因子」と呼ばれる遺伝子スイッチを使って調節を行っている。既に、鉄欠乏を感知して発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域に存在する鉄欠乏応答性シスエレメントを、世界で最初に同定することに成功している。さらに我々が解明しているシス配列IDE1に結合して鉄吸収機構に関わる遺伝子群の転写を活性化する新規転写因子IDEF1を発見した。IDEF1は、鉄欠乏に応答する遺伝子発現のマスタースイッチとして働くと考えられる。このことは、それまで未解明だった植物の鉄欠乏応答メカニズムを分子レベルで理解する上で、最初の決定的な発見であり、植物の鉄ホメオスタシスの分野に飛躍的な展開をもたらすブレークスルーとなった。IDEF1の発現を強化したイネは、石灰質アルカリ土壌における鉄欠乏に耐性であった。
|