研究概要 |
シロイヌナズナに黒すす病菌(Alternaria brassicicola)を感染させ,代謝物の変動をLC-MS/MSを用いて分析した.この病原菌の感染によって,これまでオオムギにのみ存在することが知られていた,ヒドロキシ桂皮酸とアグマチンのアミド化合物が蓄積することを発見した.同様にヒドロキシ桂皮酸の前駆物質であるフェニルアラニンを分析したところ,蓄積量が増加する傾向を示したため,関連する一次代謝も活性化していることがわかった.また,リアルタイムPCRによって,アミド化合物の生合成に関わる可能性がある酵素遺伝子の発現を調べた.生合成の最終段階に関わる可能性があるアシルトランスフェラーゼ(14種)やヒドロキシ桂皮酸合成経路上の酵素遺伝子(7種)を対象とした.これにより,関連する遺伝子を数種にまで絞り込むことができた.一方,バレイショ塊茎中のフェニルプロパノイド経路について,代謝フラックス,生合成中間体量,酵素活性(正確には反応速度定数)を考慮に入れた数理代謝モデルを作製し,計算機を用いて各パラメーターの最適化を行うことによって,代謝フラックス,各反応段階の生合成中間体量および酵素活性値を推定した.これらの推定値をもとに計算機上に代謝モデルを作製すると,バレイショ塊茎中のフェニルフロパノイド経路の挙動をシミュレートすることが可能になる.そこで,各酵素活性値を増加減少した状態でシミュレーションを行い,各経路の代謝フラックスがどのように変化するかを求め,それをもとにフラックスコントロール係数を算出した.得られたフラックスコントロール係数から,バレイショ塊茎組織におけるp-CO生合成フラックスのコントロールには,p-coumaroyl CoAからp-COへの変換を触媒するTHTという酵素の活性化だけでなく,THTと競合してp-coumaroyl CoAをcaffeoyl CoAに変換する段階の活性の低下も同じくらい強く影響している,といった代謝フラックスの制御の様子を捉えることができた.
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