研究概要 |
メタボローム解析や代謝制御の研究は微生物において多くの研究がおこなわれてきた,微生物に比べて植物でそのような研究をおこなうことは格段に難しい.その理由は,微生物においては定常状態を容易に実現できるのに対して,植物は生育に必要な炭素源を光合成に依存しているので,炭素源の供給は明暗周期とともに日周変動するために,代謝物質の量も変動すると予想されるからである.すなわち,植物では代謝を定常状態に維持することが難しいので,実験データの取得やその解釈も難しい.本研究課題は,植物において1次代謝物質と2次代謝物質の生合成を調節している代謝調節の実態を解析するための新たな研究方法を開発することによって,植物の物質生産の制御をグローバルに明らかにしようとしたものである.研究成果のうち最も重要なものは,植物における2次代謝物質のモデリングとシミュレーションを組み合わせたフラックス解析法を開発したことである.この解析法では,はじめに代謝反応ネットワークの構造解析をおこない,このネットワークを動的な化学量論と多項式を組み合わせて表現する.この多項式の次数を決定してモデルを得る.次に,このモデルをモンテカルロ・シミュレーションでテストして信頼性を評価する.多項式の係数から各酵素反応が全体のフラックスに与える感度を評価することができる.本研究課題で開発した動的なフラックス解析法をジャガイモ根茎における病気感染によって誘導される2次代謝に応用したところ,エリシター処理にともなうフェニルプロパノイド系2次代謝の調節機構を解析するために必要な定量的データを獲得することができた.この解析法は,「技術的にも数学的にも洗練された研究である」と,国際的に高い評価を受けた(Sweetlove, et. al.,Biochem.J.409,27-41(2008)).
|