研究課題
基盤研究(B)
成長の初期における栄養環境が成長後の代謝に影響を及ぼすことが報告されており、このような現象を「代謝的刷り込み」とよぶ。先の研究において、離乳期にメバロン酸添加食を3週間だけ与えたラットは、通常食を与え続けたラットと比較して、成長後の肝臓トリアシルグリセロール(TG)濃度が有意に低く、TGの構成分子である脂肪酸を生合成する酵素、脂肪酸合成酵素(FAS)のMrna発現量も有意に低い値を示すという結果を得た。これはメバロン酸に肝臓のFAS Mrna発現およびTG濃度を低減させる代謝的刷り込み効果があることを示唆しており、本研究はこの刷り込み現象のメカニズム解明を目的としている。先の動物実験の再現系としてHepG2細胞を用いて行った実験では、80%コンフルエントの状態からメバロン酸を含む培地で36時間培養し、その後さらにメバロン酸を含まない培地で36時間培養すると、72時間通常培地で培養した対照群と比較してFAS活性およびmRNA発現が有意に低い値を示した。これは動物実験と同様の結果であった。このように時期特異的なメバロン酸刺激によってFAS mRNA発現が長期的に抑制される機構として我々は、エピジェネティックな遺伝子発現調節、特にDNAのメチル化に注目して検討を行った。哺乳類ではシトシンとグアニンが連続する配列(CpG配列)のシトシンにのみ確認されている。このCpG配列は遺伝子のプロモーター領域に多くみられ、メチル化が起こると転写因子の結合を阻害し下流遺伝子の発現を抑制すると考えられている。前述の細胞実験の条件において、FAS遺伝子のプロモーター領域のメチル化解析をMSP法およびBisulfite sequencing法を用いて行った。その結果、領域内の転写因子応答配列Sterol regulatory element(SRE)近傍のメチル化状態がメバロン酸による刺激によって促進されることが明らかとなった。以上の結果からin vitroにおいて、時期特異的なメバロン酸刺激によってFASプロモーター領域内のSRE近傍のDNAメチル化が促進され、これによりFAS mRNA発現が抑制されている可能性が示された。
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