研究概要 |
宿主の免疫系は,腸内に共生する腸内細菌によって免疫系組織の分化・発達が制御されると考えられている.我々は,腸内細菌の存在しない無菌(GF)マウスと通常(CV)マウスとの比較研究から,腸内細菌の存在が直接,腸管免疫系の組織形成や感染防御に重要なIgA産生応答を発達させるかを解明すべく,特に不明な点が多い大腸部位のIgA産生について,GFマウスとCVマウスのIgA産生応答を比較し,特にGF由来の大腸の免疫系細胞に対する腸内細菌による刺激がIgA産生応答にどのように影響を与えるのかを検討した. GF, CVマウスの盲腸以下を大腸部位としたとき,大腸組織中に分泌されるIgA産生量はCVマウスの方がGFマウスよりも有意に高かった.CV, GFマウス大腸粘膜固有層(L-LP)リンパ球のフェノタイプは,IgA^+B220^-細胞(IgA形質細胞),IgA^+B220^+細胞(IgA前駆細胞)の割合ともCVマウスの方が高く,その一方でIgM^+B220^+細胞の割合ではCVとGFとで差が認められなかった.また,抗体標識磁気ビーズ(MACS)法を用いてIgA^+B220^-細胞,B220^+細胞に分画し,IgA産生能を検討したところ,いずれもGFマウスよりもCVマウスの方が高かった.さらに,GF由来のIgM^+細胞(IgA形質細胞へのクラススイッチが行われていないリンパ球)をMACS法により精製し,in vitroにおいて,リポ多糖(LPS),またはマウスに優勢に存在する腸内菌であるBacteroidesと共培養を行うことによってIgA産生に与える影響を調べた結果,グラム陰性菌細胞壁成分であるLPSやマウス腸内共生細菌のBacteroidesの刺激によって,IgA産生量が増加することが明らかになった.以上より,腸内細菌による免疫系細胞への刺激は,IgM^+B220^+細胞からIgA^+B220^+細胞への分化を誘導することで,それに続くIgA産生応答を惹起させている可能性が示唆された.
|