研究概要 |
イラクサにおいて防御形質と考えられる刺毛密度の進化にシカの被食が淘汰圧としてどの程度重要かを明らかにすることを目標として,シカが多数生息する奈良公園およびその近接地で11箇所,シカの生息が確認されていないかあるいはこの数年でシカがみられるようになった8箇所の計19箇所においてイラクサの刺毛密度とシカの糞粒密度を調査した.これまでの研究では,極端に高い刺毛密度を有するイラクサ個体群と非常に低い刺毛密度を有するイラクサ個体群しか見つかっていなかったが,あらたに中間の密度を有するイラクサ個体群が奈良公園およびその周縁部でみつかった.これにより,刺毛密度の変異機構をさらに詳しく研究するための材料を得ることができた. 大台ヶ原における防鹿柵内でミヤコザサについて(1)生育初期に葉を部分切除する実験、および(2)週1回、接触刺激を与え続ける実験を行った結果、小型化の主たる原因は葉への傷害ではなく、物理的な接触刺激であることが示唆された。植物体サイズが最終的に決定される時期のミヤコザサの観察、および柵内外のミヤコザサの組織切片観察を行った結果、稈高、葉面積のいずれについても、植物体サイズの調節は、細胞の増殖制御によることが示唆された。また、防鹿柵外の自然群落内においてミヤコザサの稈高と被食度の関係を調べた。稈高が小さいほど食害の程度も小さいことが明らかになり、小型化は食害回避に有効であることが示された。さらに、シカから保護するとミヤコザサ地上部のバイオマスは急激に増加するが地下部(特に根)のバイオマスはほとんど増加しないことを明らかにし、大型化に伴う窒素含量の減少は、窒素の需給バランスが崩れたことによるものである可能性を強く示唆した。
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