研究概要 |
「生物個体呼吸」と「個体サイズ」の関係解明は生命科学のセントラルドグマとして、Nature,Science,PNAS誌などで「Metabolic/Universal Scaling」研究として繰り返し議論されてきた。現在、個体呼吸Rと個体重Wの「R=aW^b,(a、b係数)」関係には、アリゾナ大のEnquistモデルでは「b=3/4」、ミネソタ大のReich推定では「b=1」が主張され、理論的研究を中心に激しい論争は継続している。しかし、従来の手法では、両対数軸上での微妙な傾き「b」の確定は困難との指摘もある。 そこで我々は、これまで測定不可能であった発芽実生から巨木まで「根を含む全樹木個体の呼吸」を「ほぼ全ての個体サイズレンジ」、「多数個体」で、「正確」に測定する方法・装置を開発した。材料はアジア・ユーラシアの赤道~北極圏永久凍土地帯まで全ての森林植物帯の野外で、被陰され枯死寸前のもから優勢個体まで選択し、その重量幅は約10億倍、樹齢幅は1ヶ月から約240年、個体数は約250個体、約60種であり、すべて同じ測定原理を用いた。広いサイズレンジをカバーするため大小数十の装置を自作した。地上部は非破壊測定も併用して、切断の影響が無いことも明らかにした。その結果、従来の主張とは有意に異なり、さらに従来の主張を統合する逆数式が成立した。 このように種間を通じて上記の様に逆数式が成立したが、森林植物帯間による差を検討するにはサンプルサイズが十分でなく明確な結論を出すに至らなかった。更に検討を続けるとともに、樹齢とともに変化すると予測する個体呼吸の制御要因についてもさらに検討を重ねる予定である。
|