研究概要 |
個体呼吸は「生命維持のエネルギー」を表し、「個体呼吸R-個体の重さW関係」研究は「メタボリック・スケーリング」研究として生物資源管理など応用価値の高い課題である。この関係は単純べき乗式によるアロメトリー式「R=aW^b」(a,b:係数)で1世紀に渡り議論されてきた。現在、この式の傾き「3/4説」(West他、サイエンス(1997))が有力だが、否定的な意見も多く激論が継続している。 傾きbが1だと呼吸は重量比例、3/4だと大きな生物ほど重さあたりの呼吸は低くなる。また、2/3だと表面積比例となる。ミネソタ大学のReich(ネイチャー2006)は樹木の一部の呼吸測定から「b=1」を「推定」し、これに対してアリゾナ大Enquist,West達は激しく反論した(ネイチャー、2007)。我々は、実生から巨木の「植物個体全体呼吸実測」が無いことが「論争泥沼化」の原因と考えた。 そこで、我々は実生から巨木まで「全樹木個体の呼吸」を実測する方法を開発した。材料は、赤道~北極圏の森林植物帯の64種、個体重量幅約10億倍、271個体を用いた。その結果、上記の2つの傾きのアロメトリー式を漸近線に持つ、曲線式(混合べき関数)が統計的に成立した。本式では、小さな植物の傾きは1、大きな樹木では3/4に近くなり、2つの有力説を統合した。これは小植物では幹内部まで呼吸は一定であるが、大きな樹木では内部に呼吸の低い部分が多量にあることを示す。混合べき関数式は、実生から長期間成長し巨木になるまでの物理的環境の変化に柔軟に適応する能力を示す。本論文で新たに提案する植物の呼吸式は、生物成長モデル、生物多様性の解明、二酸化炭素収支のモデルなどの新しい基盤となることが期待される。今後は、安定同位体を用いて「個体レベル貯蔵量」を生活型の異なる樹種間で比較し、各樹種の環境変動適応能比較評価研究を進める予定である。結果はアメリカ科学アカデミー紀要に投稿し、現在専門家による審査が進んでいる。
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