本研究は、セルロースの燃料電池電解質膜への適用を検討することを目的とした。電解質膜の基本特性として熱的・化学的安定性が求められるため、まずバクテリアセルロース(BC)からフィルムを調製し、耐熱性および耐ラジカル製の評価を行った。動的粘弾性測定より得られたBCフィルムの貯蔵弾性率は260℃付近まで約7GPaでほぼ一定であった。またFenton試験においてラジカル分解によるBCフィルムの重量減少率は約30%であった。この試験によるセロハンの重量減少がほぼ100%であることを考えると、BCフィルムは優れた耐ラジカル性を有していると考えられる。極限粘度数測定より、Fenton試験後のセルロースには分子量低下が生じていることがわかったが、X線回折測定より結晶化度には変化がないことが示された。 また、さらなる機能性の付与を目的として燃料電池用金属触媒として用いられるパラジウム(Pd)をBCに付着させることを試みた。(NH4)2[PdC16]水溶液中にBCフィルムを浸漬して加熱(70℃)したところ、膜表面にPdの析出が認められた。また、(NH4)2[PdCl6]水溶液中にBCフィルムを浸漬させた後にNaBH4水溶液と反応させたところ、室温でも還元反応が速やかに進行しBC膜上にPdが付着した。 以上のことから、BCフィルムは耐熱性および耐ラジカル性に優れ、高い力学強度を有し、さらに触媒金属も容易に付着させることができることから、燃料電池電解質膜に適用できることが示唆された。
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