研究概要 |
本研究では,外来遺伝子(在来と異なるという意味において)の侵入が在来集団に及ぼす影響やリスクを適切に評価することにより,在来集団の保全方策を解明することを目指している. 今年度は,中国(金州,丹東),有明海(滑石,松雄)と不知火海(龍ヶ岳,牛深)からアサリの標本を採取し,各サンプル105個体のアイソザイム分析を行って8遺伝子座において遺伝子型を決定した.平均アリル数は、5.9から7.4の範囲にあり,標本によって特に大きな違いはなかった.平均ヘテロ接合体率は0.253から0.337で,すべての集団でホモ接合体過剰となっていた.アリル頻度において、丹東は他のどの標本とも大きく異なった(Fst=0.15-0.26).金州は日本の標本と有意に異なったが,有明海により近く(Fst=0.007-0.011),不知火海とは少し差があった(Fst=0.021-0.032).日本の標本は隣り合う地域間ではいずれも差がなかったが,地理的距離が離れると遺伝的分化は小さいが有意となった.有明海の滑石周辺にはアサリの畜養施設があり,大量の中国アサリが畜養されている.滑石の標本では,金州の混合率が0.2636±0.1000,丹東のそれは0.0834±0.0402と推定された.また,これまで中国および日本の他県からの移植実績がない松雄では,金州の混合率が0.3595±0.1083,丹東のそれは0.0444±0.0426と類似の結果が得られた.丹東の混合率の95%信頼区間の下限はいずれも0で,混合の可能性はないと考えてよさそうである.滑石の標本については,漁場から獲られたもので,中国アサリを含む可能性は極めて小さい.また,移植実績がない松雄の方が金州の混合率が大きく推定された.これらより,金州と有明海では遺伝的に近く同じアリルを共有していることがノイズになって,見かけ上中国アサリが混合しているかのような結果が得られたものと判断された.本研究では,アイソザイムを用いたが,本年待たれていたアサリのマイクロサテライトマーカーが開発されたので,これを用いることでさらに精度のよい推定が可能になることが期待される. この他,遺伝的分化と混合率の推定のための新しい推定方法を開発し,その有効性をシミュレーションで明らかにするとともに,ニシンやノコギリガザミのデータに適用した.また,種苗放流の遺伝的リスク評価の基礎となる放流効果についても,代表的な放流対象種であるクルマエビ,マダイ,ヒラメについて総括し評価した.
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