研究概要 |
実験1 ワムシの生物機能の解析 ワムシの体サイズは基本的に,低水温,低塩分,Tetraselmis給餌の時に大型化した。環境制御に対する体サイズの変化はワムシ株間で異なった。静岡株は他の3株より体サイズが大きく,特に水温15℃,塩分22ppt,Tetraselmis給餌で,被甲長(平均±標準偏差)は324.5±23.6μmで,その中には404.7μmの個体も出現した。水中アンモニアに対する耐性はワムシ株によって異なり、通常のワムシよりも1.5倍耐性が高い株が見つかった。 実験2 ワムシ株間の交雑実験と交雑株の生物機能評価 研究室のカルチャーコレクションに保有しているNH1L株(長大株)とドイツ株、およびNH1L株(長大株)とオーストラリア株との間で種間交雑に成功し、親株に比較して増殖率の高い株や、アンモニア耐性の強い株の作出に成功した。以上より、遺伝的に異なるワムシ株の間での交雑が可能であること、株間交雑が優良品種の育種に有効な手段となることが明らかになった。 実験3 遺伝子マーカーを用いたワムシ株の同定技法の開発 ワムシのミトコンドリアDNAをPCRにて増幅する手法を開発し、ワムシ16株のミトコンドリアDNAを増幅した。増幅したミトコンドリアDNAを制限酵素Bgl IIとSal I、EcoRIとXho Iの二つの組合せで別々に消化した後、アガロースゲル電気泳動でRFLPフィンガープリントパターンを比較したところ、全ての株間で異なるパターンが得られた。以上より、ミトコンドリアDNAのRFLP解析によってワムシ株の同定が可能であることが明らかとなった。 実験4 優良形質を有するワムシ株の選抜 複数株を混在させた場合、株間の交雑を通じて親株とは異なるワムシが生じたことから、遺伝的多様性が高まることが示唆された。一方、単性生殖を通じて、増殖能や環境耐性に優れたワムシ株が残り、他は淘汰されることが予測される。この確認は次年度の課題としたい。(担当:小谷) 実験5 選抜株を用いて仔魚飼育実験 来年度以降に優良株を用いた仔魚飼育実験に着手するための対照データを得るため、現状の種苗生産機関で汎用されているワムシ株を用いて、ワムシの行動と化学組成(栄養価)を測定し、餌料価値を評価した。現在までのところ、遊泳速度と脂肪酸組成にはワムシの株間で大きな違いは見いだせていない。
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