今年度の最大の成果は、長年の課題であったoySLP2遺伝子の全長クローニングに成功したことである。cDNAレベルのRT-PCRクローニングならびにゲノムレベルの遺伝子ウォークからの結果が一致したことから、得られた遺伝子は確実にoySLP2全長をコードする遺伝子であると判断された。興味深いことに本遺伝子はイントロンレスであったこと、またサザンブロット解析の結果マルチコピーからなっていたことから、貝殻形成におけるoySLP2の重要性が示唆された。また、サザンブロット解析において、イシサンゴとの交差性が示されたことから、oySLP2は幅広い生物種においてバイオミネラリゼーション過程に関わっているものと推測された。また、in situハイブリダーゼーション解析において、oySLP2は稜柱層形成に関わっていることが示された。一方、oySLP1の免疫走査電子顕微鏡観察にも成功し、最外層を覆うように分布していることが示された。クモ糸ペプチドを塗布した核を挿入したアコヤガイから得られた真珠では、最外殻においてアラゴナイト層が多層化しやすい傾向を示した。一方、大腸菌を用いて作製したクモ糸タンパク質oySLP1の組換え体は、マグネシウムイオンとカルシウムイオン共存下におけるアラゴナイト形成をカルサイト形成にシフトさせる機能を有していた。また、当初予想していなかった成果であるが、貝殻を温和な条件下で焼成することにより貝殻中のクモ糸様タンパク質などの有機物の分解を抑えることができ、その結果、極めて高性能な凝集沈殿剤を開発することに成功した。
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