研究概要 |
前年度までの研究により、麻ひ性貝毒(PSP)生産菌の抽出物中に抗STX(saxitoxin)抗体と反応するタンパク質成分の存在を明らかにした。本年度はまず本タンパク成分の性状解析を行い、本タンパクがRNAを結合した核タンパク質であり、STXに対する抗体はRNA部分と反応していることを明らかにした。次に、上記細菌およびPSPの発生海域である大船渡湾より分離した細菌のうち最も抗体と反応する菌株について、定法によりtotal RNAを分離し、抗体との反応性を調べたところ両者のRNAともに明瞭な反応を示した。そこでこれらRNAを抗体を結合したSepharoseを用いるaffinity columnに付し、columnに結合するRNAをagarose gel電気泳動分析したところ、rRNAの一部とその分解物と思われる低分子RNAが検出された。これらRNAをnuclease P1により分解し、分解物中の抗体結合成分を再びaffinity columnで精製し、STXに対する抗体と結合する2つの画分を得た。affinity columnで早く溶出する画分をHPLC分析に付したところPSPの成分であるgonyautoxin(GTX)2,3と一致するピークが観察された。これらピーク成分は標品毒と同様、チオールで処理することにより定量的にSTXに変換され、GTX2,3そのものであると考えられた。現在MS分析による確認を行っている。以上の結果はPSPがある種の海洋細菌RNAの構成成分であることを示すもので、海洋生物毒として知られてきたPSPが、ある種の細菌の生命活動に重要な意味を持つ物質として働いていることを強く示唆する。この結果は、今後のPSPの起源に関する研究など、多く研究の方向を変える重要な知見であると考える。
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