研究概要 |
本研究では,水田農業を今後も維持していくためには,水田農業に伴う環境への負のインパクトを軽減するための努力なしにはありえないという観点に立ち,水田農業におけるいくつかの環境負荷削減技術の効果を定量化するとともに,効果を最大限に発揮するための管理手法を提案することを目的としている.ここで対象とする環境負荷は窒素,リン,濁質,有機物である.また,具体的には,滋賀県琵琶湖周辺の水田農業地帯を対象として,(1)循環灌漑(排水の再利用),(2)浄化型排水路・浄化池,(3)水位保持型暗渠,(4)排水路の堰上げの4つの技術について検討した.本年度は,地表水,地下水,土壌について,量的・質的な現地観測を行い,観測データをもとに各管理における効果を圃場レベルや地区レベルで定量化した. (1)の循環灌漑においては,水門流出(琵琶湖への負荷量)は中干し後の逆水灌漑(外湖取水)を行った場合に比べて,循環灌漑を主に行った代かき・田植え期〜中干し後においてかなり抑制されていることが明らかになった.すなわち,水路系における水循環の制御による地区レベルでの物質循環の制御が可能であることを示した.(2)の浄化型排水路・浄化池においては,水質浄化のために配された植生自体による物質吸収量は少ないが,循環灌漑との組み合わせにより,幹線排水路・浄化池は,一時的な水と物質の貯留の場となるため,水路系の環境負荷削減機能が増進されることになる.(3)の水位保持型暗渠においては,暗渠流出量と流出負荷量の削減効果が明確に現れなかった.(4)の排水との堰上げにおいては,堰上げによって硝酸態窒素負荷量の削減効果が見られること,浸透量の抑制効果が見られ,用水量節減,排水量削減に寄与する可能性を示すことができた.また,排水路堰上げによる魚類生態系の保全効果も示した.
|